人気ブログランキング | 話題のタグを見る

文章を書く練習の、童話ブログ。マーティンに憧れて。


by pippin-daisy

羽がはえたお話 3

フォントさんは真っ青な顔をしてぶるぶる震え、座りこんだまま目をいっぱいに見開いて、帽子の男を見上げた。
男は再びフォントさんにむかってニヤリと笑うと、観衆の方を向いてお辞儀をし、はっきりと言放った。
 「―さて、みなさま。これが、わたくしのお見せする、魔法でございます。」

小屋の中は、静かだった。
今見たことに対して、誰も声を発するものがいなかった。驚きすぎて出せなかったのだ。

フォントさんはがんこもので、かたぶつだから、帽子の男と組んで自分たちを驚かせたとは誰一人思っていなかったし、何かしかけがあるに違いないと思っても、一体どういう仕組みでそんなことができるのか、分かるものもいなかった。

そして、後ろの方からじょじょに、人々が帰りはじめた。
もともと小さい村で、農作業中のひまつぶしに来ていた人たちだったから、自分の仕事を思い出したのかもしれなかったし、夢の中の出来事からさめたような、ボーっとした顔の人は頭が働かなくなって、小屋から逃げ出したのかもしれなかった。
 
何人かは、どういうしかけなのか指輪を見に前へ来ようとした者がいたが、他の者に止められてまで知りたいとは思わなかったようで、ちらちらと帽子の男を伺いながら帰っていった。
フォントさんは、まだその場に座りこんだまま動けないようだったので、いくにんかの友人に引きずられながら、出ていってしまった。

やがて小屋の中は、二人を残して、誰もいなくなってしまった。
二人というのは、奇妙な帽子の男と、もう一人はビルだった。

ビルは最初から最後まで、何も言わずに大きな目でじっと見ていて、不思議な指輪に、ただ興味をひかれていた。
なので、帽子の男の所までつかつかと歩いていくと、大きな声できっぱりと、こう言った。
 「そのゆびわ、すげえな。どうやって魔法使うんだ?おれ、そのゆびわ欲しいな。」
帽子の男はビルがしゃべっている間、ちょっとツンとして、じろじろととビルを観察していた。
そして片まゆと口をちょっと上げて、言った。
 「君の名前は」
 「ビル」 
ビルは短く答えた。
 
普段話かける人が、家族以外ではジョン・タビーしかいなかったし、しかもこの不思議な男としゃべれることにとにかくわくわくしていたので、ビルはつっかえ気味に言った。
 「あんたの名前も教えてくれよ」
すると男は、いきなり心のそこから嬉しいというような顔になり、再び大きくニヤニヤと笑いながら答えた。

 「私の名前は『13番目』というんだ。不思議だろう?なぜ13番目なのかと言うと、」
そこまで言うと、突然小声になったので、ビルは男に少しちかよった。
そしてものすごい勢いでしゃべりだした。
 「実はね、私は魔法の指輪が隠されている地図を持っているんだ。そこには100個もの指輪のありかが書いてある。世界をまわって宝の指輪を見つけるのが私の仕事でね、今まで見つけた指輪の数が、13個というわけなのさ。ね、もうわかったろう。この前までの私の名は『12番目』だったんだが、この」
と言って、ポケットから先ほどの、青い玉のついた指輪を取り出して、ビルに見せた。
 「この指輪を先月やっと見つけてね、13番目になれたというわけさ。どうだい、自分の名前がだんだん増えていくなんてすてきじゃないか、愉快だろう。『100番目』になったら何が起こるのか私にも分からないがとにかく、」
と、いったん言葉を切ってから、ビルの目をまっすぐに見て言った。
 「これは本物の魔法の指輪なんだ。」

                                           【つづく】
# by pippin-daisy | 2006-06-20 19:23 | 羽がはえたお話

羽がはえたお話 2

するとフォントさんの後ろにいた人たちが、突然ざわっとなった。
フォントさんは初め、何が起きたのか分からないという顔をしていたが、何か自分のからだがおかしい、と思ってごわごわ振りかえって見ると。
そこには、見事な美しい灰色の大きな羽が、フォントさんの背中から、ヒュッと生えていたのだった。

まわりの人達が思わずあとずさりをして見守る中、羽は一度大きくはばたくと、小屋の高い天上までフォントさんを持ち上げるように舞いあがった。
羽はフォントさんの意思に関係なく動いているようだった。というのも、羽が最初に動いた時から、フォントさんは声にならない声を出し、一番高いところで止まった時(それ以上は屋根がじゃましてあがれなかったので)、ぎゃあぎゃあとわめいて、「おろしてくれ!おろしてくれ!」と叫び続けていたからだ。
 
ふしぎな男はにやにやしながらその光景を見ていたが、フォントさんがあんまり騒ぐので、もう十分という表情をして、再び指輪をはめた長い細い指をあお向けでフォントさんに向け、おいでおいで、というようにゆっくり動かした。
すると、羽はまるで指に吸い寄せられるように、フォントさんごとゆっくりと降りてきた。そしてフォントさんが地面におしりをつくと、みるみる縮んで小さくなり、終いにはあとかたもなく消えてしまった。

                                         【つづく】
# by pippin-daisy | 2005-12-20 20:07 | 羽がはえたお話

羽がはえたお話 1

ビルの家の裏には、ビルがうまれる前から、海のようにどこまでも広いとうもろこし畑があった。

毎年夏になり、とうもろこしがさあ食べてというふうになると、畑を管理しているジョン・タビーは生活のたしにするために、一本8ピールで売りだしたので、夏のあいだは、ビルの家では毎日おっかさんが家族のためのとうもろこしを買って、みんなに食べさせた。

そしてビルが6歳になると、とうもろこしを買いにいくのはビルの仕事になった。

ジョン・タビーは無口なたちだったから、ビルが家族分のお金をさしだすと何も言わずに畑の中に入り、とうもろこしを何本か抱えて出てくると、茶色の紙に包んで、だまったままビルにさしだした。

しかしビルはそれを受け取らず、自分の倍ほどもある背丈のとうもろこし畑の中に体をつっこんで、ひげをむしったり、まぎれこんだトンボやテントウムシを捕まえたりしながら、時おり外に顔を出してジョンに話しかけた。

ジョンは何を話しかけても、だまったままちらっとビルを見るだけだったが、ビルはかまわず、
 「ミミズのでっけえのがいたぞ。あれ土食ってんだな。おれさかなにやってもいいか」とか、
白く長いひげを顔にくっつけて
 「とうもろこしのじじい、ひげ何本あるんだ。おれもひげはえてんだぜ。」とか話しかけ、ジョンが何も言わないことを知っているから、返事をする前に、またとうもろこしの海へもぐっていくのだった。

そして誰にも何も言われずに遊ぶことができたので、―そのためにビルの家族はちょいちょい食事が遅れることがあったのだが―ビルはこの仕事がきらいではなかった。

 
ビルが10歳になった年の夏、世界をまわる見世物小屋がやってきた。
ご近所の人たちはめったに来ないおまつりに浮かれ、一杯のエールをひっかけ、出かけていった。
ビルももちろん行きたかったので、おとうちゃんにたのみにお勝手にいくと、ちょうど一杯やっているところだったから、飛びあがって喜んだ。

見世物小屋が開かれている広場では、人がごったがえしており、あらゆる色の風船とクラッカー・紙テープ、あらゆる音で溢れていた。
おかしな顔をしたピエロがそこらじゅうにいて、子供たちにお菓子をくばっていたし、さまざまな曲芸を披露していたので、ビルもおとうちゃんと一緒にピエロに笑い、見たこともない動物や、植物、聞いたことのない音楽などを楽しんだ。

しばらく二人で色々回っていると、おとうちゃんが飲み仲間を見つけたらしく上機嫌で、
 「オイビル、おとうちゃんこいつらと飲んでくるけども、おめえ一人で大丈夫だよな」
というので、ビルはうん。とうなずいた。

そしておとうちゃんが仲間とどこかへ行く背中をしばらく見ていた後、今度はひとりで色々な小屋を回りはじめた。
そうして歩いているうち、にぎやかさからすこし離れた所に一つの、不恰好で背の高い小屋を発見した。
その小屋は他の小屋とは違って、音も何も聞こえてこなかった。
広場のはずれにあるようで、後ろは草原になっていたので、風が音をさえぎっているようでもあった。

ビルが中に入ってみると、そんなに大きくない小屋の中は、結構な人数でうまっていた。
どうやらこれから何かが始まるらしい。ということを、頭の上から降ってくる会話で知り、ビルは人ごみをかき分けて、一番前に陣取った。
みんなビルのような子供には優しく、ニコニコ笑って前へ押し出してくれたのだ。

さて、ビルのまん前には一段高い木の箱がぽつんと置かれており、人びとが一瞬しずまると、一人の奇妙な男がつかつかと小屋の奥から出てきた。
背が高く、顔色の悪いおかしなマントを着た不思議なその男は、色とりどりの羽をつけた黒い帽子をちょっと曲がって頭にかぶり、顔をニヤリとゆがませながら、観衆に向かってこういった。

 「みなさま、お集まりのみなさま、ようこそわたくしの小屋へ!」 
そしてぐるっと辺りを見まわし、声の調子を上げて言った。
 「これからわたくしが、みなさまにお見せすることは、手品でも、仕掛けでもございません。わたくしがお見せするのは、ほんものの魔法でございます!」
 
これを聞いた観衆は、ざわざわとし始めた。
魔法なんて使えるわけがないと叫ぶものもあれば、いや外国からきたんだ本当に使えるのかもしれない、と隣にそっとささやくものもあった。
叫んだ男はフォントさんといい、さっきビルを前にやるために周りに、どいてやれと声をかけてくれた人だった。

男は片まゆをちょっとあげてフォントさんを見やり、人をかきわけてその前に立った。
そしてポケットから青い玉のついた指輪を取りだし、骨と皮だけのような細く長いとがった指にはめると、その指でフォントさんのひたいを軽くなでた。

                                         【つづく】
# by pippin-daisy | 2005-11-20 23:28 | 羽がはえたお話

ランプ森 1

 あるところに、どこまで広がっているのか誰にもわからないくらいの、おおきなおおきな深い森がありました。
 そしてその森から少しはなれたところに、ひとりの女の子がお母さんといっしょに暮らしていました。
 女の子のなまえはルーシーといって、笑うと両方のほっぺたが赤くなりえくぼができる、とても明るくてかわいい子だったので、お母さんにも街の人たちからもとてもかわいがられていました。

 ルーシーにはお父さんがいませんでした。ルーシーがまだほんの赤ん坊だったときに死んでしまったのです。
 しかし、ルーシーのお母さんはルーシーのことを、いつでもしっかりと抱きしめていてくれたので、さみしいと思ったことはありませんでした。

 ルーシーの家より少しはなれたところ、森の入り口の小屋に、一人のおばあさんが住んでいました。
 おばあさんはとてもやさしい人で、ルーシーのことをまるで孫のようにかわいがっていました。そしてルーシーも、ルーシーのお母さんも、おばあさんのことが大好きでした。

 おばあさんのところへ遊びにいくと、決まって言われる言葉がありました。
 「あの森の奥へはぜったいに入ってはいけないよ。」
 ルーシーはそのいいつけを、しっかりと守っていました。なぜなら、お母さんも街の人もこわがって、今まで森の奥へ入った人はひとりもいなかったからです。
 だから、入り口からちょっと進んだところにキイチゴをつみに行くほかは、それ以上奥へは入ろうとしませんでした。

 そしてもうひとつ、おばあさんだけが言い、お母さんからも街の人からも言われなかった言葉がありました。
 「ほんとうに、いいかい?ほんとうに困ったときだよ。そのときには奥へ入っていきなさい。」

 「どうして?」
とルーシーが聞きかえすと、おばあさんは何だかふしぎな目のえがおになって、
 「きっと、森がたすけてくれるからね。」
とこたえました。
  ルーシーはよくわからなかったのですが、『ほんとうに困ったこと』ということがなかったので、(たとえば転んでとっても痛かった、とかキイチゴをつむときに食べすぎちゃってどうしよう、とかいうことは度々ありましたが、ほんとうに困った。ということとはちがうような気がしたので)たいして気にも止めずにまいにち幸せにくらしていました。
 
 ある日、ルーシーはいつものようにおばあさんの家に遊びにいきました。
 そしてドアをあけると、いつもならたなの上においてあるたくさんの写真や、ルーシーも大好きな花もようの手作りのテーブルかけがなくなっています。
 そのほかにも、家の中をきれいにかざっていたものがきれいに片付けられていました。

 (一旦保存します~。)








 
 その年の、あとひとつきもすれば暖かい春がくるだろう、というころです。とつぜんお母さんが病気になってしまったのです。
 ルーシーはお母さんが大好きだったので、まいにちいっしょうけんめい看病をしました。しかしルーシーのような小さい子では、どうにもならないことがたくさんあります。
 そこで街のおいしゃさまに来てもらいましたが、おいしゃさまでもかんたんに治せないようで、お薬をひとふくろおいて、ルーシーに「よく休むようにね」といって帰っていきました。


                                         【つづく】
# by pippin-daisy | 2005-02-17 01:08 | ランプ森

メモとして。

 夜です。

 空にはすべすべの紺色のびろうどが、しわ一つなくぴんと張られていています。
 空気はしぼりたてのミルクのように濃く、とうめいで、なんのふるえもかんじません。
 海はまるで空をうつすかがみのようにまっくろで、ゼリーのようにぴかぴかしておりました。

 そのゼリーに光るきんいろのソースがかかっています。なんでしょう?
おつきさまでした。空を見るとなるほど、大きなきんいろのまあるい穴があいていました。それを受けて、海はぴかぴかしていたのです。

 
  
   ※メモなのでお話になるかどうか、わかりません。
# by pippin-daisy | 2005-02-04 00:23 | うみ