フォントさんは真っ青な顔をしてぶるぶる震え、座りこんだまま目をいっぱいに見開いて、帽子の男を見上げた。
男は再びフォントさんにむかってニヤリと笑うと、観衆の方を向いてお辞儀をし、はっきりと言放った。
「―さて、みなさま。これが、わたくしのお見せする、魔法でございます。」
小屋の中は、静かだった。
今見たことに対して、誰も声を発するものがいなかった。驚きすぎて出せなかったのだ。
フォントさんはがんこもので、かたぶつだから、帽子の男と組んで自分たちを驚かせたとは誰一人思っていなかったし、何かしかけがあるに違いないと思っても、一体どういう仕組みでそんなことができるのか、分かるものもいなかった。
そして、後ろの方からじょじょに、人々が帰りはじめた。
もともと小さい村で、農作業中のひまつぶしに来ていた人たちだったから、自分の仕事を思い出したのかもしれなかったし、夢の中の出来事からさめたような、ボーっとした顔の人は頭が働かなくなって、小屋から逃げ出したのかもしれなかった。
何人かは、どういうしかけなのか指輪を見に前へ来ようとした者がいたが、他の者に止められてまで知りたいとは思わなかったようで、ちらちらと帽子の男を伺いながら帰っていった。
フォントさんは、まだその場に座りこんだまま動けないようだったので、いくにんかの友人に引きずられながら、出ていってしまった。
やがて小屋の中は、二人を残して、誰もいなくなってしまった。
二人というのは、奇妙な帽子の男と、もう一人はビルだった。
ビルは最初から最後まで、何も言わずに大きな目でじっと見ていて、不思議な指輪に、ただ興味をひかれていた。
なので、帽子の男の所までつかつかと歩いていくと、大きな声できっぱりと、こう言った。
「そのゆびわ、すげえな。どうやって魔法使うんだ?おれ、そのゆびわ欲しいな。」
帽子の男はビルがしゃべっている間、ちょっとツンとして、じろじろととビルを観察していた。
そして片まゆと口をちょっと上げて、言った。
「君の名前は」
「ビル」
ビルは短く答えた。
普段話かける人が、家族以外ではジョン・タビーしかいなかったし、しかもこの不思議な男としゃべれることにとにかくわくわくしていたので、ビルはつっかえ気味に言った。
「あんたの名前も教えてくれよ」
すると男は、いきなり心のそこから嬉しいというような顔になり、再び大きくニヤニヤと笑いながら答えた。
「私の名前は『13番目』というんだ。不思議だろう?なぜ13番目なのかと言うと、」
そこまで言うと、突然小声になったので、ビルは男に少しちかよった。
そしてものすごい勢いでしゃべりだした。
「実はね、私は魔法の指輪が隠されている地図を持っているんだ。そこには100個もの指輪のありかが書いてある。世界をまわって宝の指輪を見つけるのが私の仕事でね、今まで見つけた指輪の数が、13個というわけなのさ。ね、もうわかったろう。この前までの私の名は『12番目』だったんだが、この」
と言って、ポケットから先ほどの、青い玉のついた指輪を取り出して、ビルに見せた。
「この指輪を先月やっと見つけてね、13番目になれたというわけさ。どうだい、自分の名前がだんだん増えていくなんてすてきじゃないか、愉快だろう。『100番目』になったら何が起こるのか私にも分からないがとにかく、」
と、いったん言葉を切ってから、ビルの目をまっすぐに見て言った。
「これは本物の魔法の指輪なんだ。」
【つづく】
男は再びフォントさんにむかってニヤリと笑うと、観衆の方を向いてお辞儀をし、はっきりと言放った。
「―さて、みなさま。これが、わたくしのお見せする、魔法でございます。」
小屋の中は、静かだった。
今見たことに対して、誰も声を発するものがいなかった。驚きすぎて出せなかったのだ。
フォントさんはがんこもので、かたぶつだから、帽子の男と組んで自分たちを驚かせたとは誰一人思っていなかったし、何かしかけがあるに違いないと思っても、一体どういう仕組みでそんなことができるのか、分かるものもいなかった。
そして、後ろの方からじょじょに、人々が帰りはじめた。
もともと小さい村で、農作業中のひまつぶしに来ていた人たちだったから、自分の仕事を思い出したのかもしれなかったし、夢の中の出来事からさめたような、ボーっとした顔の人は頭が働かなくなって、小屋から逃げ出したのかもしれなかった。
何人かは、どういうしかけなのか指輪を見に前へ来ようとした者がいたが、他の者に止められてまで知りたいとは思わなかったようで、ちらちらと帽子の男を伺いながら帰っていった。
フォントさんは、まだその場に座りこんだまま動けないようだったので、いくにんかの友人に引きずられながら、出ていってしまった。
やがて小屋の中は、二人を残して、誰もいなくなってしまった。
二人というのは、奇妙な帽子の男と、もう一人はビルだった。
ビルは最初から最後まで、何も言わずに大きな目でじっと見ていて、不思議な指輪に、ただ興味をひかれていた。
なので、帽子の男の所までつかつかと歩いていくと、大きな声できっぱりと、こう言った。
「そのゆびわ、すげえな。どうやって魔法使うんだ?おれ、そのゆびわ欲しいな。」
帽子の男はビルがしゃべっている間、ちょっとツンとして、じろじろととビルを観察していた。
そして片まゆと口をちょっと上げて、言った。
「君の名前は」
「ビル」
ビルは短く答えた。
普段話かける人が、家族以外ではジョン・タビーしかいなかったし、しかもこの不思議な男としゃべれることにとにかくわくわくしていたので、ビルはつっかえ気味に言った。
「あんたの名前も教えてくれよ」
すると男は、いきなり心のそこから嬉しいというような顔になり、再び大きくニヤニヤと笑いながら答えた。
「私の名前は『13番目』というんだ。不思議だろう?なぜ13番目なのかと言うと、」
そこまで言うと、突然小声になったので、ビルは男に少しちかよった。
そしてものすごい勢いでしゃべりだした。
「実はね、私は魔法の指輪が隠されている地図を持っているんだ。そこには100個もの指輪のありかが書いてある。世界をまわって宝の指輪を見つけるのが私の仕事でね、今まで見つけた指輪の数が、13個というわけなのさ。ね、もうわかったろう。この前までの私の名は『12番目』だったんだが、この」
と言って、ポケットから先ほどの、青い玉のついた指輪を取り出して、ビルに見せた。
「この指輪を先月やっと見つけてね、13番目になれたというわけさ。どうだい、自分の名前がだんだん増えていくなんてすてきじゃないか、愉快だろう。『100番目』になったら何が起こるのか私にも分からないがとにかく、」
と、いったん言葉を切ってから、ビルの目をまっすぐに見て言った。
「これは本物の魔法の指輪なんだ。」
【つづく】
#
by pippin-daisy
| 2006-06-20 19:23
| 羽がはえたお話